歯科医院で何が変わる?運用を開始した電子処方箋とは
2023年1月から運用開始の電子処方箋についてご存じでしょうか。現在、政府が推進している医療DXの一環として注目を集める制度です。その詳細や導入によるメリット、また補助金についてまとめて解説します。
電子処方箋とは
電子処方箋とは、現在紙で発行されている処方箋をデジタルデータで運用する仕組みを指します。2023年1月から運用が開始され、歯科医院や医科診療所、病院などの医療機関は、これまでの紙での発行ではなく、処方内容などのデータはオンライン上で登録(発行)、医療機関と薬局間での処方・調剤情報や、その疑義照会等の情報連携が可能になります。また、患者さんにとっては薬の受け取りが簡略化され、医療機関にとっては過去のお薬情報を確認できるようになるなど、双方にとってメリットのあるシステムといえます。
電子処方箋は2023年4月から導入が義務化されるオンライン資格確認の仕組みをベースにしたものです。医療機関は、処方内容と調剤内容を管理する「電子処方箋管理サービス(支払基金、国保中央会)」を通して、全国の医療機関や薬局で発行された直近3年分の薬剤情報や処方情報を、患者さんの同意のもとで確認できるようになります。
電子処方箋は、現在、厚生労働省が中心となって推進している「医療DX」の一環として位置づけられています。医療DXは、最新のデジタル技術を導入することで医療現場における業務プロセスや医療サービスを変革し、医療従事者の働く環境を改善したり、患者さんに新たな価値を提供したりすることを目指しています。今回ご紹介する電子処方箋のほか、電子カルテの標準化やオンライン資格確認などはその最たる例といえるでしょう。
医療DXについては以下の記事でも詳しく説明しています。ぜひ併せてご確認ください。
●関連コラム:歯科業界は医療DXでどう変わる?目指す未来とDX化で実現できること
※2023年1月現在、当面は患者さんが「電子処方箋」を選択した場合でも、「処方内容(控え)」を印刷する必要があります。この「処方内容(控え)」は将来的に廃止となる方向ですが、詳細な時期については決定しておりません。
電子処方箋のメリット
電子処方箋を導入すると、どのようなメリットが生まれるのでしょうか。歯科医院側のメリット、患者さんのメリットそれぞれの視点からご説明します。
歯科医院のメリット(院内処方と院外処方について)
電子処方箋を導入する大きなメリットは、複数の医療機関・薬局をまたいだ過去の薬剤の情報を確認できるという点にあります。ほかの歯科医院はもちろん、医科を含む医療機関、薬局の処方・調剤情報を過去3年間分確認することができるため、重複投薬や併用禁忌のチェックに役立ちます。
患者さんによっては抗血栓薬、骨粗鬆症治療薬、ステロイド、糖尿病治療薬、神経系薬剤など、歯科治療の判断を大きく左右する薬を服用しているケースもあります。こうした情報を、患者さんの記憶や自己申告だけに頼ることなく、正式な服薬履歴として確認できることで、より安心・安全な歯科医療を提供することができるようになります。
また上記に加えて電子処方箋の導入によりフォーマットが統一され、直近の処方情報や薬剤情報など伝達情報が充実することで、歯科医院、薬局の双方が質の高い医療サービスを効率的に提供できるようになります。
患者さんのメリット
一方で、患者さん側のメリットとしては、自分自身で服用説明の内容が確認できるという点が挙げられます。
電子処方箋管理サービスに蓄積された患者さんのお薬のデータは、マイナポータル上(※1)で患者さん自身がオンラインで閲覧できます。自分自身の薬剤情報を一元管理することで薬を正確に把握し、正しく飲むことができるようになるメリットが生まれます。
また、電子版お薬手帳アプリなどをインストールしていれば、引換番号と被保険者番号を薬局に事前送付することができます。これにより、薬局内で待たずに薬を受け取れるようになるほか、遠隔地診療の際も自宅近くの薬局で薬を受け取りやすくなるメリットが生まれます。
※1マイナポータル:各種行政手続きが可能な、政府が運営するオンラインサービス
電子処方箋を導入する際の補助金
電子処方箋を利用する際は、レセプトコンピューターの改修など、コストがかかる点に留意しなくてはなりません。厚生労働省は、これら電子処方箋の導入にかかるコストの一部を補助する「電子処方箋管理サービス等関係補助金」を実施しています。具体的な補助内容や上限金額は、以下のようになっています。
大規模病院(病床数200床以上)
162.2万円を上限に補助(事業額の486.6万円を上限にその1/3を補助)
病院(大規模病院以外)
108.6万円を上限に補助(事業額の325.9万円を上限にその1/3を補助)
診療所
19.4万円を上限に補助(事業額の38.7万円を上限にその1/2を補助)
大型チェーン薬局(グループで処方箋の受付が月4万回以上の薬局)
9.7万円を上限に補助(事業額の38.7万円を上限にその1/4を補助)
薬局(大型チェーン薬局以外)
19.4万円を上限に補助(事業額の38.7万円を上限にその1/2を補助)
補助金申請の条件や具体的な手続き方法は医療機関等向けポータルサイトをご覧ください。
まとめ:将来的には電子処方箋が身近なものに
現在、厚生労働省が中心となって推進している医療DXへの取り組みは、電子処方箋だけでなくオンライン資格確認や構想段階の全国医療情報プラットフォームも含め、まだ不透明な部分も多いのが現状です。
しかし、医療DXへの取り組みのひとつであるオンライン資格確認は、すでに2023年4月以降導入が義務化されることが決定しており、近い将来にはそのシステムを利用した電子処方箋の存在も当たり前のものになる可能性があります。
また、電子処方箋は患者さんにとっての利便性だけでなく、患者さんの服薬履歴を確認できたり投薬ミス回避につながったりするなど、歯科医院にとってもメリットの大きな制度です。いますぐに導入を検討しない場合でも、情報収集を行い、動向を注視しておくことが重要といえるでしょう。