歯科医院の節税対策、何から始める?節税手法と医療法人化の判断基準
歯科医院の経営が軌道に乗り、利益が安定してくると、所得税・住民税の負担が大きな課題となります。日本の所得税は累進課税制度を採用しており、所得が増えるほど税率も上昇するため、適切な節税対策が必要です。
一方で、節税の方法を誤ると手元資金が減少する「節税貧乏」に陥るリスクもあります。個人事業主として実施できる対策と、医療法人化を検討すべきタイミングを正しく理解することが重要です。
本記事では、歯科医院の経営者が知っておくべき節税の基本的な考え方から、収入規模に応じた具体的な手法、医療法人化の判断基準まで解説します。
歯科医院の節税対策における基本的な考え方
歯科医院における節税対策は、単に税金を減らすことが目的ではありません。まずは、節税に取り組むうえで押さえておきたい基本的な考え方を整理します。
節税の目的
節税対策の目的は、単に税金を減らすことではなく、事業継続に必要な資金を手元に確保することにあります。例えば、利益が1,000万円出た場合、所得税・住民税・事業税などを合わせて約300万円から400万円が税金として支払われます。この負担を適切に軽減できれば、その分を新しい診療機器の導入やスタッフの待遇改善、マーケティング活動といった、医院の価値を高める投資に回すことができます。
「節税貧乏」を避けるための判断基準
節税対策を検討する際に最も注意すべきなのが「節税貧乏」です。税金を減らそうと意識するあまり、不要な支出を増やしてしまい、かえって手元資金が減ってしまう状態を指します。
よくあるのが、決算間近に利益が出そうだからと慌てて高額な医療機器を購入したり、必要性の低い広告宣伝費を使ったりするケースです。経費が増えれば確かに税金は減りますが、その支出が本当に必要だったのか、事業の成長に貢献するのか、将来的に回収できる見込みがあるのかを冷静に見極める必要があります。税金を払うのと不要な支出をするのでは、どちらが合理的かを総合的に判断することが重要です。
支出の有無による節税手法の分類
節税手法は主に下記の2つのタイプに分けられます。
・制度や会計処理の工夫による節税
医師優遇税制(措置法26条)、青色事業専従者給与、少額減価償却資産の特例などがこれに該当します。現金の流出を最小限に抑えながら節税できるため、まず優先的に検討すべき手法です。
・資金の支出を伴う節税
実際に現金を支払って経費計上し、税負担を軽減します。小規模企業共済や経営セーフティ共済への加入、生命保険の活用などが代表例です。支出は発生しますが、将来的な資金準備や事業保全といった副次的なメリットも得られます。
基本的には、まず制度や会計処理の工夫による節税手法を最大限活用したうえで、事業計画に沿って資金の支出を伴う節税手法を組み合わせていく流れが効果的です。
制度や会計処理の工夫による節税手法
節税対策は、必ずしも現金の支出を増やすことだけを意味するものではありません。ここでは、制度や会計処理を工夫することで実践できる、支出を伴わない節税手法を紹介します。
医師優遇税制(措置法26条)の活用
医師優遇税制(租税特別措置法第26条)は、歯科医院の個人事業主が利用できる特例的な節税制度です。この制度では、社会保険診療報酬に対して実際の経費額ではなく、概算経費を適用できます。
適用要件は、社会保険診療報酬が年間5,000万円以下であることです。概算経費率は、社会保険診療報酬の金額に応じて段階的に設定されています。
実際の経費率が概算経費率を下回っている場合、この制度を利用することで税負担を軽減できます。ただし、実際の経費が多い場合は、通常の計算方法のほうが有利になるケースもあるため、顧問税理士と相談のうえ、どちらが有利かを判断する必要があります。
この制度を利用する場合、自由診療収入については通常通り実額での経費計上が必要です。社会保険診療と自由診療の経費を適切に区分して管理することが求められます。
青色事業専従者給与による所得分散
青色事業専従者給与は、配偶者や親族に対して支払う給与を経費として計上できる制度です。個人事業主の場合、通常は自分自身への給与は経費になりませんが、事業に専従する家族への給与は一定の条件を満たせば経費計上が可能になります。
例えば、歯科医院では受付対応やレセプト業務、予約管理、院内の事務作業などを配偶者が継続的に担っているケースもあります。このように、実際に業務へ従事している場合には、青色事業専従者給与を活用することで、所得分散による節税効果が期待できます。
適用要件は、青色申告を行っていること、15歳以上の家族であること、年間6ヶ月以上その事業に専従していること、事前に届出を提出していることです。給与額については、実際の業務内容や勤務時間に見合った、労務の対価として適正な範囲内で設定する必要があります。不相応に高額な金額を設定した場合には、税務調査で否認されるリスクがあるため注意が必要です。
参考:No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除|国税庁
少額減価償却資産の特例
青色申告を行っている個人事業主は、取得価額が30万円未満の資産について、通常の減価償却ではなく一括で経費計上できる特例を利用できます。この特例は年間合計300万円まで適用可能で、決算期末に購入したものでも全額経費として計上できます。
一般的に、事業で使用する資産は取得価額が一定額以上になると固定資産として計上し、耐用年数に応じて減価償却を行います。しかし、この特例を利用することで、パソコンやレセコン周辺機器、診療用ユニットの周辺備品、小型の歯科用医療機器など、30万円未満の資産を購入した年度に全額経費にすることが可能です。歯科医院では、比較的少額でも導入頻度の高い設備や備品が多いため、設備投資の時期や購入内容を調整することで、この特例を効果的に活用しやすいといえます。
注意点として、特例の適用を受けるには確定申告書に明細を添付する必要があります。また、消費税の経理処理方法(税抜経理か税込経理か)によって、判定する金額が変わる点にも留意が必要です。設備投資の計画がある場合、購入時期や金額を調整することで、この特例を効果的に活用できます。
さらに、2026年税制改正により「特例を使って一括経費にできる固定資産の上限額が、従来の30万円未満から40万円未満に引き上げられる」ことが、令和7年12月26日に閣議決定されています。この改正も踏まえ、今後の設備投資の判断や資金計画にお役立てください。
参考:No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例|国税庁
参考:参考:令和8年度税制改正の大綱(目次)|財務省
資金の支出を伴う節税手法
支出を伴わない節税手法を活用したうえで、将来に備えた資金準備として検討されるのが、支出を伴う節税手法です。節税効果だけでなく、リスク対策や退職金準備といった側面も含めて解説します。
小規模企業共済による退職金準備
小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の経営者向けの退職金制度です。月々1,000円から70,000円の範囲で掛金を設定でき、支払った掛金の全額が所得控除の対象になります。
歯科医院の院長は、個人事業主として開業しているケースも多く、一般的な企業のような退職金制度を持たないことが少なくありません。そのため、小規模企業共済は、院長個人の退職金や老後資金の準備を兼ねた節税策として、歯科医院でも活用しやすい制度といえます。
例えば、年間84万円(月7万円)を掛金として支払った場合、所得税率33%なら約28万円、所得税率23%なら約19万円の節税効果があります。積み立てた掛金は、事業を廃止したときや医療法人化したときに共済金として受け取れます。
注意点として、加入後20年未満で任意解約すると、掛金の全額が戻ってきません。ただし、医療法人化に伴う解約や65歳以上での解約など、一定の条件を満たせば掛金相当額以上を受け取れます。
経営セーフティ共済の活用
経営セーフティ共済は、取引先の倒産に備えるための共済制度ですが、節税手段としても広く利用されています。月額5,000円から200,000円の範囲で掛金を設定でき、支払った掛金は全額を経費(損金)として計上できます。
この共済が節税対策として利用されるのは、掛金を支払った年に経費として計上できる一方、解約時の共済金は将来に課税される仕組みになっているためです。結果として、税負担のタイミングを将来にずらすことができます。
歯科医院では、思いがけず利益が大きく出た年度に掛金を積み立て、将来的に医療法人化や設備投資、人件費の増加などで利益が落ち着くタイミングで解約する、といった使い方が見られます。こうした形で、年度ごとの所得をならしながら、結果的に税負担を抑えることにつなげるケースもあります。
参考:経営セーフティ共済とは|中小企業基盤整備機構(中小機構)
短期前払費用と生命保険
短期前払費用は、1年以内のサービスに対する費用を前払いした場合、支払時に全額を経費計上できる制度です。例えば、3月決算の医院が翌年3月分までの賃料や保険料を前払いすれば、その年度の経費として処理できます。
歯科医院では、賃料や医療機器のリース料、保守契約料、保険料など、毎期継続して発生する支出が多くあります。これらの費用について、決算前に翌期分を前払いし、短期前払費用として当期の経費にできるかを検討するケースがあります。ただし、一時的な節税目的での利用は認められておらず、継続的な処理であることが重要です。
また、生命保険についても、契約内容によっては保険料の一部を経費として計上できる場合があります。歯科医院では、万が一に備えた保障を確保しつつ、利益が大きく出た年度の税負担を調整する目的で活用されることがあります。
医療法人化による節税効果と判断基準
個人事業主として実施できる節税手法には一定の効果がありますが、利益が拡大するにつれて限界も見えてきます。こうした段階で検討されるのが、医療法人化による節税と経営の最適化です。
医療法人化を検討する判断基準
医療法人化を検討する目安として、年間利益1,500万円〜1,800万円前後が挙げられます。この水準を超えると、個人事業主として支払う所得税・住民税の税率が高くなるため、医療法人として法人税を支払う方が税負担を抑えられるケースが増えてきます。
ただし、医院の収益構造、家族構成、既存の節税対策の活用状況などによって、最適な法人化タイミングは異なります。実際に判断する際は、シミュレーションを行うことが重要です。
医療法人化で得られる節税効果
医療法人化の主なメリットは、給与所得控除の活用、所得分散、退職金制度の導入などです。役員報酬として給与所得控除を受けられるため、税負担を軽減できます。また、配偶者や親族を理事に選任して所得分散を図ることも可能です。
医療法人化の詳しいメリット・デメリット、手続きの流れについては下記コラムで詳しく解説しています。
●関連コラム:「歯科医院の医療法人化とは?メリットやデメリット、手続きの流れについて詳しく解説」はこちら
法人化が適さないケースと注意点
医療法人化には、社会保険料の事業主負担増加、設立手続きの複雑さ、設立費用(100万円〜200万円程度)などのデメリットも存在します。年間利益が安定していない、スタッフ数が少ない、近い将来に閉院予定がある場合は、個人事業主のまま適切な節税対策を実施する方が合理的なケースもあります。
なお、医療法人化以外の選択肢として、MS法人(メディカル・サービス法人)を活用した節税手法もあります。医療法人と別にMS法人を設立し、医療行為以外の業務を委託することで、所得分散や経費の最適化を図る方法です。ただし、設立や運営には専門的な知識が必要となるため、税理士と相談のうえ慎重に検討する必要があります。
まとめ
歯科医院における節税対策は、まず措置法26条や青色事業専従者給与といった制度や会計処理の工夫による手法を優先的に検討することが基本です。そのうえで、小規模企業共済や経営セーフティ共済など、将来的な資金準備を兼ねた手法を組み合わせていく流れが効果的です。
年間利益が1,500万円を超える規模になった場合、医療法人化による節税効果も視野に入れる時期といえます。ただし、法人化には社会保険料負担の増加や事務手続きの複雑化といったデメリットも存在するため、医院の経営状況を踏まえた判断が必要です。
節税手法の選択や医療法人化の判断については、税制改正などにより有利な制度や適用条件が変わることもあるため、歯科医院の税務に精通した税理士へ相談しながら進めると安心です。
※節税対策を行いながら、計画的な設備投資を行いましょう
●お役立ち資料:「動画で解説!釣銭機と精算機の違いとは?」はこちら
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│投稿者│株式会社ミック デジタルマーケティングチーム
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