歯科医院の在庫管理を見直す|欠品・廃棄・過剰在庫を防ぐ実践的な改善方法
歯科医院経営において、在庫管理は材料費率を左右する重要な業務です。平均的な在庫管理ができていれば、材料費率7~9%を維持しながら、欠品による機会損失も防げます。
しかし実際には「発注ノートで管理しているが欠品が起きる」「期限切れの廃棄が出てしまった」「在庫がどこにあるかわからない」といった課題を抱えている医院が多く見られます。
本記事では、歯科医院でよくある在庫管理の課題と、その解決方法を解説します。アナログでの基本的な改善方法から、デジタル化による効率化まで、医院の状況に合わせて取り組める具体策をご紹介します。
歯科医院経営における在庫管理の重要性
歯科医院の経営において、在庫管理は単なる事務作業ではありません。まずは、在庫管理がどれほど医院経営に影響を与えるのか、その重要性を確認していきましょう。
在庫管理の質が材料費率を左右する
歯科医院の経営において、材料費率は在庫管理の質によって大きく変動します。平均的な在庫管理ができていないと、期限切れによる廃棄ロス、過剰在庫によるキャッシュフローの悪化、発注ミスによる欠品など、さまざまな無駄が発生し、材料費率を押し上げる原因となります。
一般的に、歯科医院の材料費率は売上の7~9%程度が平均とされています。この範囲を超えると利益率が低下し、逆に極端に低すぎると在庫切れによる診療機会の損失が発生します。在庫管理の質を高めることで、この範囲を維持できます。
さらに、在庫管理は単なるコスト管理だけでなく、診療の質にも直結します。必要な材料が必要なときに手元にあることで、スムーズな診療が可能になり、患者さんの満足度も高まります。
在庫管理が経営に与える3つの影響
1つ目は収益の最大化です。欠品により計画通りの診療が行えなくなり、機会損失が発生する可能性があります。特に自費診療の材料が不足している場合、その影響は大きくなります。
2つ目は医院運営の安定性です。過剰在庫を抱えることで、本来は設備投資や広告費に回せる資金が在庫に固定化されてしまいます。期限切れの廃棄が多いと、無駄なコストとして利益を圧迫します。
3つ目はスタッフの働きやすさです。在庫管理に時間がかかりすぎると、診療補助や患者対応といった本来の業務に十分な時間を割けなくなります。また、発注業務が特定のスタッフに属人化すると、その人が休んだときに混乱が生じます。
歯科医院の在庫管理が抱える課題
在庫管理の重要性を理解していても、実際の運用では様々な課題に直面します。ここでは、多くの歯科医院で見られる代表的な課題を見ていきましょう。
アナログ管理の限界
多くの歯科医院では、発注ノートや手書きの管理表で在庫を管理しています。この方法は導入が簡単で、特別なツールも不要です。しかし、医院の規模拡大や取り扱う材料の種類の増加、新しい名称への変更などがあると、アナログ管理だけでは限界が見えてきます。
発注ノートの課題は、在庫の全体像が見えにくいことです。どの材料がどれだけ残っているかを確認するには、実際に在庫棚を見に行く必要があります。加えて、複数のスタッフが同時に在庫を確認することができないため、診療中に「あの材料はまだあったかな」と迷うことも少なくありません。
さらに、発注ノートは記入漏れや記入ミスが発生しやすく、「ノートには書いてあるのに実際の在庫がない」「発注済みなのに再度発注してしまった」といった問題が起こります。
在庫管理で起こる5つの問題
歯科医院の在庫管理で特によく見られる課題を5つ紹介します。
・発注ミス、欠品
在庫が少なくなっていることに気づかず、診療直前になって材料がないことに気づくケースです。患者さんの予約を変更したり、代替の材料で対応したりすることになり、診療の質やスタッフの負担に影響します。
・使用期限切れの廃棄
奥の方に保管されていた材料が期限切れになっていて、未使用のまま廃棄せざるを得ないケースです。特に使用頻度の低い材料や、セット商品の一部だけが余ってしまった場合に起こりやすい問題です。
・在庫の所在不明
「確かに発注したはずなのに見つからない」「別の場所にしまい込んでしまった」など、在庫がどこにあるかわからなくなるケースです。複数の保管場所がある場合や、スタッフ間で保管ルールが共有されていない場合に発生します。
・スタッフの負担と属人化
在庫チェックや発注業務が特定のスタッフに集中し、その人がいないと回らない状態です。発注ノートの見方や書き方も特定のスタッフだけが理解している場合、担当者の休暇時や退職時に引き継ぎがうまくいかず、在庫管理が混乱することがあります。
・過剰在庫とキャッシュフロー悪化
「欠品が怖いから」と多めに発注した結果、在庫が積み上がってしまうケースです。在庫に資金が固定化され、本来は設備投資や人材採用に使える資金が減ってしまいます。
在庫管理改善がもたらす効果
在庫管理を改善することで、医院経営にさまざまなプラスの影響があります。主な効果を3つの側面から見ていきましょう。
コスト削減:材料費率の改善
在庫管理を改善することで、最も直接的に効果が現れるのが材料費率の改善です。期限切れによる廃棄が減り、過剰在庫による無駄な仕入れがなくなることで、材料費を適正水準に保てます。
例えば、月間の材料費が50万円の医院で5%の廃棄ロスがあった場合、年間では30万円の無駄が発生しています。在庫管理を改善してこの廃棄を減らすことができれば、大きなコスト削減効果が期待できます。
業務効率化:スタッフが診療に集中できる
在庫管理の仕組みが整うことで、スタッフが在庫チェックや発注作業に費やす時間が削減されます。在庫確認にかかる時間が短縮されれば、その時間を患者対応や診療補助に充てることができます。
また、在庫情報が可視化されることで、複数のスタッフが同時に状況を把握できるようになります。特定の人に業務が集中することがなくなり、チーム全体で在庫管理に取り組める体制が作れます。結果として、スタッフの負担が軽減され、働きやすい職場環境を作れます。
経営の安定化:キャッシュフロー改善
平均的な在庫水準を維持することで、無駄な在庫への支出を減らせます。過剰在庫を抱えると、購入に使った資金が在庫として棚に眠ったままになり、本来は設備投資や広告費に回せるはずの資金を活用できなくなります。必要な分だけを適切なタイミングで発注することで、手元の資金を有効に使えるようになります。
また、欠品による診療機会の損失を防ぐことも重要です。特に高額な自費診療の材料が欠品した場合、一度の機会損失が大きくなります。在庫管理を改善することで、こうしたリスクを減らすことができます。
在庫管理の課題を解決する基本的な考え方
在庫管理は「在庫数の把握」「発注業務」「使用期限の管理」という3つの業務で構成されています。これらを適切に行うための基本的な考え方を見ていきましょう。
平均的な在庫水準を維持する
在庫管理の基本は、平均的な在庫数を維持することです。「平均的」とは、欠品を起こさず、かつ過剰にならない水準を指します。
各材料について、1週間や2週間でどれくらい使用するかを把握し、その使用量に基づいて発注点を決めます。使用頻度の高い材料は常に一定量を確保し、使用頻度の低い材料は最小限の在庫で回すことが理想です。また、納品までのリードタイムも考慮に入れ、発注から到着までの日数分の在庫は常に確保しておく必要があります。
欠品を出さない仕組み
欠品を防ぐには、在庫が一定水準を下回ったら自動的に気づける仕組みが必要です。「この材料が残り〇個になったら発注する」という発注点を明確に決めておくことで、欠品リスクを大幅に減らせます。
また、定期的な在庫チェックの習慣をつけることも重要です。毎週決まった曜日に在庫を確認する、診療終了後に必ず使用した材料の残数を確認するなど、ルーティン化することで見落としを防げます。
管理・発注業務の簡略化
在庫管理や発注業務は、できるだけシンプルな方法で行うことが継続のコツです。複雑な管理方法では最初は機能しても、忙しくなると続けられなくなります。
誰が見てもわかる管理表、誰でも発注できる仕組みを作ることで、特定のスタッフに業務が集中することを防げます。また、業務を簡略化することで、在庫管理にかかる時間を減らし、スタッフが本来の業務に集中できる環境を作ることができます。
できることから始める在庫管理の改善方法
ここからは、今日から取り組める具体的な改善方法を紹介します。まずは以下の方法を試してみましょう。
在庫管理リスト・発注ノートの項目見直し
在庫管理に使う在庫リストや発注ノートの項目を見直しましょう。最低限必要な項目は、「材料名」「現在の在庫数」「保管場所」「使用期限」「発注日」「納品予定日」「発注担当者」です。これに「発注点(この数になったら発注)」「使用頻度」などを追加すると、より効果的な管理ができます。
発注済みなのか、納品待ちなのか、在庫があるのかといった状態が明確にわかるようにすることで、重複発注を防げます。ノートでもExcelでも構いませんが、複数のスタッフが確認できる形にしておくことが大切です。
保管場所の整理とラベル管理
在庫の保管場所を明確にし、整理整頓することで、探す時間を削減できます。材料ごとに定位置を決め、使ったら必ず元の場所に戻すルールを徹底しましょう。使用頻度の高い材料ほど取り出しやすい位置に配置します。
在庫棚には材料名のラベルを貼り、定位置を明確にします。ラベルには「残り○個で発注」といった発注点も記載しておくと、発注タイミングを見逃しにくくなります。また、材料が納品されたら、必ず使用期限を目立つ場所に記入する習慣をつけましょう。期限が3カ月以内に迫っている材料に赤いシールを貼るなど、視覚的に管理することで、期限の管理がしやすくなります。
先入れ先出しの徹底
「先入れ先出し」とは、古い在庫から順番に使用していく方法です。新しく納品された材料は棚の奥に置き、古い材料を手前に置くことで、自然と古いものから使われる仕組みを作ります。
納品時に必ず古い在庫を手前に移動させる作業を習慣化することが重要です。「とりあえず空いている場所に置く」という対応をしてしまうと、先入れ先出しが機能しなくなります。スタッフ全員がこのルールを理解し、日常的に実践しましょう。
在庫管理のデジタル化を検討する
アナログでの改善方法を実践しても課題が残る場合は、在庫管理システムの導入によって業務効率が大きく改善される可能性があります。ここでは、デジタル化による効率化について詳しく見ていきましょう。
デジタル化を検討するタイミング
以下のような状況になっている場合は、システム導入によって業務効率が大きく改善される可能性があります。
・在庫チェックに毎回30分以上かかっている
・複数のスタッフが同時に在庫状況を確認したい場面がある
・発注ミスや記入漏れが頻繁に発生している
・過去の発注履歴を振り返りたいが、ノートを遡るのが大変
・材料ごとの使用量やコストを分析したい
これらの課題がある場合、デジタル化によって業務の質が大きく向上します。
在庫管理システムの主な機能
在庫管理システムには、様々な機能が搭載されています。代表的な機能を紹介します。
・バーコード、QRコード管理
材料にバーコードやQRコードを付けることで、入出庫の記録が数秒で完了します。手書きやExcel入力に比べて、大幅な時間短縮が可能です。また、読み取りミスがなくなるため、在庫数の精度も向上します。
・自動発注アラート機能
設定した発注点に達すると、自動で通知してくれる機能です。発注忘れを防ぎ、欠品リスクを大幅に減らせます。また、発注のタイミングを自動で判断してくれるシステムもあります。
・使用期限管理、警告機能
使用期限が近い材料を自動で警告してくれる機能です。期限切れによる廃棄を防ぐことができます。期限の短い順に表示されるため、優先的に使用すべき材料が一目でわかります。
・使用量分析、レポート機能
どの材料をどれくらいの頻度で使用しているか、材料費がどう推移しているかといったデータを簡単に可視化できます。グラフやレポート形式で表示されるため、経営判断にも役立ちます。
・クラウド
クラウドに対応したシステムなら、複数のスタッフが異なる場所から同時に在庫状況を確認できます。スマートフォンやタブレットからもアクセスできるため、診療中でも素早く在庫を確認できます。
システム導入のメリットと注意点
在庫管理システムを選ぶ際は、以下のポイントを確認しましょう。
・医院の運営体制に合っているか
患者数、運営体制、スタッフのITスキルなど、医院の状況によって適したシステムは異なります。患者数が少なく、スタッフも少人数の医院であれば、シンプルで操作が簡単なシステムが適しています。逆に、患者数が多く、複数のスタッフが同時に在庫を確認する必要がある医院では、クラウド対応の高機能なシステムが便利です。自院の運営体制に合ったシステムを選びましょう。
・既存のシステムと連携できるか
レセコンや電子カルテと連携できるシステムなら、診療データと在庫データを紐づけて管理できます。より詳細な分析が可能になり、経営の効率化につながります。
・サポート体制は充実しているか
導入後のサポート体制も重要です。操作方法がわからないときや、トラブルが発生したときに、すぐに相談できる体制が整っているかを確認しましょう。導入時の研修や、定期的なフォローアップがあるかもチェックポイントです。
デジタル化による業務改善の効果
在庫管理システムを導入することで、以下のような効果が期待できます。
・業務時間の大幅削減
バーコード管理により、在庫チェックや入出庫の記録にかかる時間が大幅に削減されます。手作業での棚卸しに比べて、作業時間を大幅に短縮できるため、削減された時間を診療や患者対応に充てることができます。
・ヒューマンエラーの防止
手書きやExcel入力では避けられない記入ミスや入力ミスが、システム化によって大幅に削減されます。バーコード読み取りによる自動記録で在庫数の精度が向上し、発注ミスや重複発注も防ぎやすくなります。
・データに基づく経営判断
材料ごとの使用量、廃棄率、材料費の推移などのデータが自動で蓄積されます。これらのデータを分析することで、無駄な在庫を減らしたり、仕入れ先を見直したりといった、根拠のある経営判断ができるようになります。
システム導入には初期費用や運用コストがかかり、スタッフが使い方に慣れるまでの期間も必要です。しかし、一度導入すれば業務効率化や経営判断の質向上によって、長期的に大きなメリットが得られます。医院の規模や課題に合わせて適切なシステムを選定することで、さらなる業務改善を実現できます。
まとめ
在庫管理の改善は、医院経営の安定化とスタッフの働きやすさ向上につながる重要な取り組みです。材料費率の改善、欠品による機会損失の防止、キャッシュフローの安定化など、さまざまな効果が期待できます
在庫リストや管理表の項目見直し、保管場所の整理、先入れ先出しの徹底など、基本的な改善から取り組むことが大切です。そして、さらなる効率化を目指す場合は、在庫管理システムの導入を検討しましょう。
在庫管理システムの導入は、業務効率化や経営判断の質向上に大きく貢献します。医院の規模や課題に合わせて、適切なシステムを選定することで、さらなる業務改善が実現できます。
在庫管理の改善は、患者さんに安定した診療を提供し続けるための基盤づくりでもあります。小さな改善を積み重ねながら、医院全体で取り組むことで、経営の質を着実に高めていくことができます。
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│投稿者│株式会社ミック デジタルマーケティングチーム
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